これが「演出」なのだっ

 面白かった。カットについて実感が持てた。
 演出というのが何なのかを気にし始めたのは、数年前からではあるけれど、さほど集中して調べたりはしていなかった。始まりは小津安二郎映画を見てのこと。普通に思うけれど、なんだかそれだけでは無いように感じた。最近になって、WEBアニメスタイル内の首藤剛志「シナリオえーだば創作術」(http://www.style.fm/as/05_column/05_shudo_bn.shtml)を読んでいる。そこで紹介されていた本を買うときに併せて買ったのが本書。
 普通を描けること、バランス感覚、リズムやテンポといったことが、エピソードや例を中心に書かれている。そして問題意識を持つこと。それをしなければ問題は意識できないけれど、それだけをしていても問題を見出せない、ということなのかもしれない。
 まだまだ演出について学ぶ予定でいる。どうすれば面白く見せることができるのか、もまた面白い。

哄う合戦屋

 ストーリーもキャラクターも面白いのだけれど、なんだか文章が退屈というか色気がない。もっとも、司馬氏のあとに読んだからかもしれないが。
 なによりもキャラクターの厚みの魅力が図抜けている。あるいは、各人に装いと内心とを別個に決めてあるかのごとく、いちいちそれらが異なる人物が出てくる。その組合せがうまく噛み合って、ストーリーを面白くしているように思う。
 続刊もあるらしい。本作の扱うよりも以前の話のようす。気が向いたら読もうかな。

果心居士の幻術

 短編6作が収録されている。

 解説は山崎正和
 書かれている時代背景はそれぞれだが、どれもさすがの俯瞰と近視で、こちらが幻術にかかっているようなものだ。浸み込むようにその時代へ導かれ、浸み出すように語り終える。
 どの作品も幻惑が絡む。意識が揺らぎ、登場人物の認識が曖昧化する、それが人間らしい。

死よおごるなかれ

  • あるガン医の告白
  • 著者:田崎勇三
  • 読売文庫
  • 読売新聞社
  • 昭和30年9月1日印刷
  • 昭和30年9月10日発行

 私の祖父が死んだとき、家には一部屋だけの中二階があり、そこが故人の書斎だった。その中にあった一冊なので古い本だ。奥付に定価130円という表記があり文庫ながらサイズは新書のものだ。
 内容はガンに関する当時のノウハウの概要といったところ。副題は出版社の暴走といってよいと思う。胃ガンを中心に語り、肺ガンなど各種のガンについてもひととおり述べている。胃ガンが中心なのは、それが発見しにくいからといい、その予防のために食事への忠告などが書かれている。
 それにしても記述がところにより叙情的というのか、やけに味わいがある。文章に工夫することで堅苦しくなくしているのか、それとも著者の人柄なのか、興味深く読んだ。
 最近のガン研究や診断や現場医療がどうなっているのかは知らないので、比較しようもないが、なんにしても情報としては古いのは間違いなかろうが、大きく革新されるようなこともないのではと思われるので基礎として、現在の状況と比較すると面白いかもしれない。なので現状を知りたくもなった。

暗殺教程

 何かで題名か著者の名前を知って、そのあとに神保町の古書店で見かけたので買ったと記憶しているが、知ったのが何でなのかが思い出せないので記憶違いかもしれない。
 次々と続くアクションの数々に、たいへん楽しめた。
 読みやすく、軽快にページをめくることができた。スパイだとか銃だとかといっても、安っぽくはならず、残酷なものもちゃんと書かれているからか、重厚でもなく感じながらも嘘くさくない、バランスに優れている印象を持った。
 解説も著者自身が書いている。曰く「評論家都筑道夫による小説家都筑道夫の長篇小説、「暗殺教程」の解説を書くことにいたします。」とのこと。著者は評論家も兼業しているそうだ。この読点の位置などが読み始めは慣れなかったが、すぐに気にならなくなった。
 洒脱というのだろうか、軽妙だなあと思った。

心でっかちな日本人

 解説は長谷川眞理子
 社会心理学の本だろうけれど、タイトルはなんだか内容にそぐわないような気がする。というのも、心でっかちというものや、なぜそうなるのかを語っているというよりは、別の原因を求める実験の様子が主に書かれているからだ。
 とくに興味深かったのは、頻度依存行動というモデルがあることを知れた点で、行動を決める要素を行動によって変化させることで、同じ要素によって行動を決める他者に影響し、その連鎖で全体が変わっていくというモデルは再帰的で面白かった。また、影響の広がりの始点となるのは、行動を決める要素を勘案せずに行動を起こす者たちという点も興味深かった。
 どうにも論理展開に、いまひとつな感がある。大げさにいえば、騙されているような気がしてならない、ということになるが、そこまでではなく、著者の敷衍が、必要な条件を維持したままではないように感じられたり、その実験結果から本当にそれが言えるのだろうかという疑問が、読んでいてずっと付きまとっていた。たとえば、孔雀の羽の話にしても、好みが遺伝することが示せなければ頻度依存とはいえないのではないか、という気がする。もっとも、私は社会心理学を全く知らないので、頻度依存の正確な定義は私の理解と異なるかもしれず、また他の知見と合わせれば実験結果の解釈も当たり前のものなのかもしれない。
 社会心理学の知見には面白いものがあるのだなあと思った。

フェルマーの最終定理

  • Fermat's Last Theorem
  • The Story of a riddle that confounded the world's greatest minds for 358 years
  • 著者:サイモン・シン (Simon Singh)
  • 訳者:青木薫
  • 新潮文庫
  • 新潮社
  • 平成20年6月10日15刷

 序盤は少し長く感じたが、先へと読ませる力がどんどん増して、静かな盛り上がりをみせる。たいへん面白く、そして儚かった。
 人の儚さ、敗れ去る論理の儚さ、そして、問題そのものが解かれてしまうことの儚さ。それでも生きているうちは力を尽くすし、成立していると思われているうちは輝きを放つし、解かれずにいるうちは君臨する。
 補遺の充実も楽しかった。そしてたいへん分かりやすかった。
 訳文についても、もともと日本語で書かれていたかのように分かりやすく流れの良いものだったと思う。
 とても面白かった。