たたずまいの美学

  • 日本人の身体技法
  • 著者:矢田部英正
  • 中公文庫
  • 中央公論新社
  • 2011年9月25日初版発行

 2004年3月に中央公論新社から刊行されたものを加筆修正したものとのこと。
 美学などというと、押しつけがましく、自分の満足を悦に入って語るだけのつまらないものに思うが、やはり著者ことだけあってメインは副題の身体技法である。思い返すに美学という言葉が本書の中には無く、たたずまいの美という言葉は特に後半でたまに見かけたくらいで、それは服飾とそれに込められた姿のあり方や、服や諸道具を使いこなすやり方から出てくるといった話だったように思う。これら方法は歴史的な裁ち方への考察や、和服の装着時のシルエットなどの比較や、履き物の調査など、かなりの量の資料から見い出されている。
 同著者の「椅子と日本人のからだ」を先に読んだが、その内容も一部は重複するものの、本書の方が論文調のようで固めで少し最初は読みにくくはあったけれど、圧倒的に本書の方が内容が濃かった。
 中に侍の立ち方が当時の日本人の身体技法を洗練させたものではないか、というような推測があった。坐り方の考察では足腰の柔軟性が日本人の坐り方には大いに必要だという、いくつかの坐り方の比較からの考察があった。私が子供の頃に祖父母の家で見た鍬などを思い出した。その道具は柄に刃が組み合わされていることは、周知だろうけれど、大抵は直角に組み合わされていると思われているような気がする。実際は、もっとずっと急だ。柄を地面に垂直に立てると、刃が自分を狙っているように感じるような角度で、この刃を地面に付き立てるには、柄がかなり低い位置にあるようにせねばならない。大きく振りかぶることは無いにしても、固い地面を掘る勢いを得るには振り上げる。そうなると足腰を使って道具の位置を高きから低きへと、ひと振りごとに変化させねばならないので、足腰の柔軟性は必要だろう。そんなことを思った。
 履き物の写真が見開きでずらっと分類されつつ並んでいるところも面白かった。足半なんていうものは始めて知った。これはむしろ、履く必要性の方が気になるくらいだ。道中下駄なんかは、気持ち悪いようにも思う。
 みっしり濃い内容で、とても面白かった。