ポケット・ウオッチ物語

 懐中時計に興味がある。
 ひとつ持っているのは、形がそれらしいだけで、懐中時計といえば、まあそうなのだけれど、機械式時計ではなく、両蓋の表蓋の蝶番が文字盤の6の位置にある。所詮は千円で、形だけでもと思って購入したものだから、それは良いのだが、この本の向こう側には、もっと面白い世界が広がっているようである。
 どちらかというと入門書だろう。それもコレクター入門に、わずかだけれど寄っている。とはいえ歴史も仕組みも種類も、一通りのことは書かれている。もちろんそれがコレクターに必要な知識ではあるだろうけれど、200ページに満たない中で幅広く、そして写真も実に豊富に掲載されている点は、コレクターに限らずに入門書として読めるだろう。
 私は機構の方に興味がある。どのような仕組みで動いているか、いろいろな部品がどのような役割を果たしているか、などの点についてだ。そこに絞って言えば、本書では図は引用ばかりだし、説明もいまひとつ分かりにくい。そうした欠点がありつつも、ポケット・ウオッチについての様々な話の中に仕組みの話も位置づけられて含まれているのは、見晴らしが良くて非常に良い。そもそも、本書を読んでいて、やっぱり機構が一番興味深いなあ、という自分の気持ちがはっきりしたということもある。
 遠くない未来に、機械式の懐中時計を手に入れたいものだ。