花影の花

 中盤以降、泣きっぱなしである。
 副題にあるとおり、忠臣蔵こと大石内蔵助良雄の妻りくの話。りくと夫、りくと子供たち、りくと姑や嫁それから他の討入浪士の遺族などなど。
 死んで、そこで終わりでない歴史や家族の続きが、ありありと描き出されている。傑作だ。
 全体としては老後のりくが振り返る形になっているが、読んでいてあまりそれを感じることはなく、時々の臨場感を楽しむことができた。そうした過去の人々、とくに内蔵助のひととなりを経てこそ、終盤でのりくの決断とそれを貫き通す意志が顕れてきたのかもしれないと思う。
 佳い話であった。