ダブルブリッドVIII

 ついに太一朗がほとんど登場しなくなってしまった。
 序盤で描かれるのは瀕死の優樹だが、この巻ではまだそうはならない。八牧との別れが描かれ、直接に死に接していない虎司について主に話は展開する。それは人を喰うことであると同時にアヤカシとしてどう存在するかについての話でもあるように思う。
 思い返してみると、ずっと存在することの不安定さを描いてきた作品のようにも思う。ヒトでもアヤカシでもない優樹、初めこそアヤカシを嫌うことで確立していたものの優樹と会い別れることで揺らぐ太一朗、若いアヤカシの虎司と夏純という状況に適応しすぎる(流される)もの、観察者という立場を貫こうとする大田、虎司を思いながら踏み出せない自覚を持っている安藤。一方で周囲の人物たちは、太一朗の兄弟にしても、浦木たちにしても、どこかしらで確立しているように感じる。片倉晃にいたっては、不安定であることを確立の根拠にしているように感じる。
 さてまあ、それはそれとして、短編のネタのような挿話を挟みながら、じくじくと話は滅亡へ向かっているような気がする。この巻、とんでもないところで切れてるなあと思ったが、次巻を眺めたところどうやら二冊で一話の構成らしい。やはり、みんな、死んでしまうのだろうか。