大盗禅師

 江戸幕府の三代将軍家光のころ。物語の種は、由比正雪の乱や明帝国の滅亡と清の成立に絡む国姓爺(こくせんや)鄭成功や、大濤禅師という人物についてと、いくつもあり、それらが関連して展開していく。
 しかし、どうもいまひとつ面白くなかった。主人公であろう浦安仙八は流されやすい性質で、それによってこの物語が成立していることは分かるが、話の推進力にはやや欠けるようにも思う。それを大濤禅師が肩代わりするのかといえばそうでもない。最終的には由比正雪のことも、鄭成功のことも半端にして話は終わっており、なんだか拍子抜けしてしまう。
 巻末に「光り輝く群像」として高橋克彦が、「解説」として磯貝勝太郎が、それぞれに解説していることは、一面ではその通りだと理解はできる。それぞれの登場人物は魅力的と言えるし、物語の構想は壮大だ。
 しかしやはり、なんだか残念だったなあと思った。
 蛇足をつけておけば、この物語の背景である浪人が巷に溢れている時代というのが、失業者が溢れる現代と少し重なりを感じた。