ダブルブリッドIII

 相変わらず、読みやすく、面白かった。
 のだが、このシリーズはどこへ向かっているのかなあ、という疑問を持った巻だった。第一巻はともかく、第二巻では優樹と太一朗の関係が深まったのだが、第三巻では特にこれといったストーリー上の展開は見られなかったような気がする。おそらく幾つかの伏線があったのかもしれない。そして何人かの、これまで名前しか出てこなかったアヤカシが登場するための巻だったように思う。
 ただ、優樹ののんびりさが作品の雰囲気になって、読みやすさを牽引しているように思う。桜の木の下には死体が埋まっている、といったモチーフや、趙蒼のような存在と彼の変化の描写なども、巧みに織り込まれていて、ストーリー以外の面でのこの巻の魅力となっている。また、終わり方も素敵だと思う。
 そういうわけで、この作品の軸は優樹ののんびりさなのではないかと感じた。前のイラストレータである藤倉氏の少し崩れたような柔らかい描線は、その感じをとても良く表現していたように思う。新らしいイラストレータのイラスト、とくにカラー口絵を見たときに、新たな少年キャラクターかと思ったのは、優樹だった。綺麗な線で描かれた新しいイラストは、太一朗を男らしくして、イラスト全体をすっきり小奇麗にはしたけれど、どことなく漂ってくる優樹の女の子らしい感じが、あまりなくなってしまったかな、というところは少し残念ではあった。
 今後の展開は全く分からないが、ひきつづき読んでいきたい。