幻想症候群

 四つの中短編から構成される一冊。ということに、最初は気付かず、一作目を読みながら、この調子で一冊続けるのは難しいんじゃないかな大丈夫かな、などと思っていた。
 そうしたら、二作目では全く違う状況が描かれていて、ようやく気付いた。そのせいだろうか、二作目はすこし冗長に感じた。二作目と三作目は、時間経過を軸に据えて展開するのだが、二作目は最後が強烈だが経過は飽きやすく、三作目は追い詰められていく経過も締め方も読んでいて没頭できた。
 作品は「遥か遠くの夏」「無限回帰エンドロール」「「夏休みの終わり」」「一〇〇〇年の森」の順に四作。
 一作目は、それなりに展開を予測できるものの、人物が鮮やかで手堅い印象の良作だと感じた。
 三作目まで読み終えたところで、面白いとは思っていた、残り40ページもない。なんだかやけに最後は短いなと思っていた。
 この四作目が、実に良かった。収録されている四作品を「幻想症候群」という不可分な一冊に仕上げている。それも先行する三作に関するネタを仕込むだけではなく、各作でたびたび記されていた希望や絶望について総括している。それは、あとがきを読むとさらによく分かるのではと思う。

「(略)だって、ここにはそういうくだらないものが、全部ないのよ。映画の中にあるようなスリルが目の前にあるだけで、私の嫌いな日常はどこにもないわ」
 先輩はうわごとみたいに言っていた。

 引用は二作目から。
 この部分を読んだときには、ひょっとしたら本書は小説についての小説なのかな、と思った。しかし違ったようだ。この先輩は四作目で語る。その内容は引用しないが、それは幻想という現実に希望を見出すか、絶望を見出すか、ということを語っているように思えた。
 といった具合に、四作品で一作品といっても良いくらいに、まとまった連作だった。
 惜しむらくは校正がいまいち甘いこと。「ひたすら」が「ひたらす」になっていたら、そりゃあ正しきがどうかは推測できるが、ふき出して崩れた、読者の中の作品の雰囲気は、なかなか元には戻らないだろう。
 ともあれ、一迅社文庫応援積みでもしようかな。既刊を買うとなると30冊くらいか。できないことはないなあ。