忍びの国

  • 著者:和田竜
  • 装画:村田涼平
  • 新潮社
  • 2008年5月30日発行

 ようやく読んだ。まあ積読崩しならば、ようやくであるのも自然ではあるけれど。
 忍びの国というのは伊賀のこと。現在の三重県京都府滋賀県と接するあたりの話。すぐ北の滋賀県内には甲賀があって、こんなに近かったんだ、と Google Maps で見て思った。
 残り100ページくらいのところで、いちど Google Maps を見て地理を把握した。ちょうど戦の始まるあたりで、伊勢の北畠(織田)信雄の軍勢の進軍経路を見てみようと思ったからだ。阿波口というのは伊賀街道のあたりか。馬野口というのは馬野渓のあたりか。青山峠はあった。木津川(といっても京都と大阪の境目で淀川に合流するよりずっと上流の細い流れだ)は近鉄伊賀線の付近である。残念ながら平楽寺は見つけられなかった。
 さて本書だが、すらすらと最後まで読んだ。伊賀者の術が随所に散りばめられ、その動きの描写が良く、飽きることが無かった。前作「のぼうの城」と同様に動作を中心に書いてあるために、活劇が読みどころだと思う。
 話の盛り上がりは最後にある。どうしても前作と比べてしまうが、前作の方がより大きな盛り上がりを、私は感じた。前作では、人々の気持ちのうねりが盛り上がりになり、それから話が一転二転している。本書では、盛り上がりは最後に急激にやってくる。言うなれば、盛り上がりが深さの方向にある。ひとりの伊賀者の心情へと同調するのが本書の盛り上がりだと思う。ただ、それに到るのに極わずかながら、超展開めいた臭いを感じた。きちんと読み返していないので伏線があったのか不明だが、思い出す中にはない。それほど無理なく展開しているのだが、ほんとうに少しだけ気になった。もう少しだけ恋愛物よりに作っても良かったのではなかろうかとも思う。
 とはいえ、楽しめた。策謀が成就するかが興味をそそり、忍術が鮮やかな動きの描写で読める。良作と感じた。