のぼうの城

 著者の「忍びの国」という本を書店にて面白そうと思ったが、隣に本書があり、どうやら著者の第一作のようであったので、まずはこちらから読んだ。
 時は戦国の末、豊臣秀吉の北条攻めの際に、現在の埼玉県行田市のあたりにあった忍城を、石田三成らが攻める。守勢は小田原城(北条氏居城)に徴収された当主の成田氏長の従兄弟にあたる城代の成田長親と家臣。
 北条攻めは秀吉の天下統一過程では終盤に位置するため、動員できる兵力は万の単位である一方、小田原城に徴収された残りの手勢で、のぼう様こと長親はどうするのか。
 私はしなかったが、Google Maps などを利用して地名や寺名などを手がかりに位置関係を把握しながら読むのもいいかもしれない。
 小説の技術的な面からみれば、風物の描写があまりないことや、陣張りを箇条書きで示したことなど、不備や手抜きと言える部分もあるが、動作や表情を中心に書いているために人間の熱気や心情といったものは、よく読み取れる。
 そのために、開戦までは長く感じる。実際のページ数では半分ない。また一方で、半分以上残っているのに、もう開戦でこの話は最後までもつのかと余計な心配も感じる。けれど、状況や登場人物たちが一気に一方向へと動き始める戦において、熱気が読者をも突き動かす。本書の後半は、じつに短く感じた。
 さて「忍びの国」の方はどうか。