法学入門

  • 著者:三ヶ月章
  • 弘文堂
  • 昭和57年3月15日初版1刷発行

 入門書の鑑といえる本、と本書の冒頭を読めば思う。
 だが、いささか抽象的で分かりにくい部分もあった。というのは本書が実際の大学講義の教科書として書かれているため、その道に対する些かの知識が前提されているようだからだ。知識というほど大げさではないかもしれない。先入観とか、偏見とか、そういったものだろう。つまりある程度は、法と生活の係わりがどのように動いているかとかに対するイメージを持っていないと読解が苦しいところもあった。
 とはいえ、第三講や第四講あたりは、歴史的な動きが活写されていて、実に楽しく読んだ。著者が戦前の法学教育を受けて、戦中から戦後の日本の法律を立て直す時代を法学者として生きているので、実に活き活きと情況が分かり、とても素晴らしい。
 良い入門書というのは、古くても十分に有用であろう。目先の細かいことばかりを取り上げているような入門書は、本来は入門書とは呼べず、役立たずの技術書とか紹介書とか言うのが正しそうに思える。本書を読んでいると、様々のそういった酷い入門書なるものを思い出して、嘆息の思いだ。本書の内容は濃く、細部に立ち入っていないながら、全体を見通しよく記述されてあり、一方で法の歴史や考え方、およびその多様さによる種々の分類などの基礎となるだろう部分を重点的に解説している。
 私は本書を講義にて教師より「名著」だと紹介されたが、なるほどそう言えるだけの本だと思う。