自然言語処理ことはじめ

  • 言葉を覚え会話のできるコンピュータ
  • 著者:荒木健治
  • 森北出版株式会社
  • 2005年7月30日第1版第2刷発行

 いわゆるひとつの専門書。とくに120ページほど2200円というあたりが。
 無論、索引とかまで入れれば150ページくらいになるが、2200円というのも税別の値。
 が、まあ、そのへんは置いておくとして。
 著者の荒木氏は帰納的学習で形態素だとかルールだとかを学習するものを作成したという。帰納的学習においては異同の認識を行い、複数の入力文から同一の部分を抜き出し、さらにそうして分解された部分ごとにまた異同の認識を行うとか、そういうことだと思う。思う、というのは同じものの中に異なるものがあることもなかろうし、異なるものの中から同じものが出てくるというのは部分に対して異同を検査する前に同一部分があることを分かりそうなものだ、と思ったからだ。実際、どのように再帰しているのかは読後の今でもよく分からない。もしかするとプログラム屋がリカージョンなどと言っているものとは少し様子が異なるのかもしれない。
 最も評価に値するのは、この分野の本にしては読みやすいことだと思う。少なくとも始めのうちはそうだ。私は徐々に興味が薄れてきて、読むのに飽きてきたのだが、興味が維持できるのであれば、そこそこ読める文が最後まで続く。後の方が少々分かりにくいと感じたのは私がイーカゲンに読んでいたからだということにしておく。とまあ、そういう意味で本書は貴重な部類に入るだろう。
 私が興味を失っていったのは、だんだんと目的と手段がすりかわっているように思ったからだ。著者は生得的能力として異同の認識のみを仮定することで、どの程度、人間の言語処理能力が計算機上に実現できるかを試みている。しかし、その生得的能力を仮定したことの根拠は書かれていなかったように思うし、人間の言語処理能力を実現したいのであれば、当然、生得的能力の仮定は、人間の言語処理能力に対する考察から得るべきであろうが、そうした内容は見当たらなかったと思う。また、後半では遺伝的アルゴリズムを導入して精度の向上を図るなど、もはや言語処理能力ではなく著者自身による仮定しか見えていず、そのための実験を繰り返しているだけではないかという感想を持った。
 が、まあ、どういうものであれ人工的に自然言語処理システムが構築できるのであれば、なんだっていいじゃないか、というのにも一理を認めるべきであろう。といっても ELIZA や SHRDLU ではダメだというのだから、やはり彼らの言っていることは要を得ない。
 入門書としては悪くなかろう。初版も2004年なので新しい方だろう。処理の技術について概要を知るためには使えるかもしれない。だが、人工知能に興味を持っているのなら面白いとは感じないかもしれない。言語(というか記号)の計算処理に興味があった方が面白がれるだろうと予測する。