ラインの虜囚

 懐かしい読書体験だった。ああ、こういう話、子供の頃読んだような気がする、というのが読書中に終始付きまとっていた。
 大きい活字に全漢字に振り仮名をつけて、年少者や馬鹿にも読めるようにできている親切なミステリーランド。今まで「ケースとかついてて邪魔なんだよ」とか思っててごめん。大切にしたくなる本だ。ケース必須だ。
 といいつつ、正味の話、面白かったかというと、いまひとつという気分がある。巻末で著者自身が述べているように、知らないことを魅せてくれる物語は私も好きだ。しかし、これは個人的、というか年齢的性別的なものか、コリンヌに入り込むのが難しかった。というか結局最後まで全体を俯瞰している感じのままだったように思う。可愛い良い子だな、とかは思っても、それがモントラシェやラフィットの視点という感覚もなく、アレクてわけでもなく。
 というか、むしろコリンヌ以外の三人、もっと言えばアレクも除いた二人を活写するのを著者が楽しいと感じているような節すら、邪推なのだろうけれど、感じられた。結局、主人公は誰だったのだろう。四人ともか。紙数の関係もあろうが、もっと各四人が感情豊かだったら良かったのではなかろうか。
 しかし、田中氏の著作はそれを圧して面白さがある。筆致もそうだし、巻末の参考文献の多さも、この面白さを作り上げているに違いない。余談だがこうして参考文献があると嬉しい。この中にも何冊か読んでみたいものがあった。あと「モンテ・クリスト伯」は「巌窟王」としてアニメ化されたときから、いつか読もうと思いつつ長さにしり込みしていた作品。この機会に手にとってみたい。
 丁寧に綴られた懐かしさのある物語だった。満悦。