無敵の人

 なんというか、無敵になれるらしい。
 ええと、まあ、とりあえず見開いたときの両サイドにある「無敵の豆知識」は結構よくきくのから、珍しいのまでなかなか面白い。
 あと、挿絵として数コマの漫画があるが、なんとも皮肉が効いていて面白い。
 で、本文に関して。
 構成としては、いわゆるケーススタディのあとに五項目のまとめが付く。各ケーススタディは「○○する「××し方」」と目的別であり、さらにそれらがテーマ別に四つの章として分類されている。
 ケーススタディばかりが並ぶことになるが、汎化するのは読者の仕事だろう。なぜなら汎化すれば一冊を構成しうるほどの分量にはならないだろうから。しかし、これを目的別であるように小タイトルを付けて分けてあるのが著者のテクニックとみた。まあ、違うかもしれないが。
 無敵の人としての基本姿勢は、本文中にも何度か出てくるが、口先を駆使して渡り歩くといったところ。個人的に、ああ、と思い当たる人物が一人いるが、そうは大勢いない類の人間だろう。
 もう一つ基本姿勢を上げるとするなら、それは相手の想像を巧く煽るように振舞うことではないかと思う。巧妙にコミュニケーションするには、精密なコミュニケーションでなくてはならない。何が精密かというと、「相手が何を考えているか」と「相手が自分が何を考えていると考えているか」の把握の精度が、だ。そういうわけで、上手く相手を知っていられる会話ならば十分無敵振りを発揮できる。が、この本における無敵はそれを上回る。それが「世間話」の存在だ。あまり親しくない人と上手く場を持たせる方法が幾つか紹介されている。いずれも彼我の共有する状況から会話のネタを探し出すわけだが、相手もネタに詰まっているような場合にはつまらない話でも場は持つなど、常に相手の状況を的確に把握していると同時に自分の努力が相手の想像の中に存在されることにも言及している。
 で、私が無敵の人になれたかどうか、というと、いや、それはねぇ。元々まわりじゅう敵ばかりだし。望む能力を十全に発揮できない我が身からして敵みたいなものではある。が、無敵の人としては自惚れ得る機会には上手いこと自惚れる快感に浸るそうな。
 なかなか難しいものだ、無敵の人になるのは。