花に背いて

 5 月に帰省した際に、母が貸してくれた。今年の大河ドラマ天地人」の原作本とのことだったが、おそらくは原作のひとつ、といったような位置づけなのかと思う。ちなみに大河ドラマは見ていない。
 8 月に帰省する際に借りていたことを思い出し、半月ほどかけて読んだ。あまり上手い文章ではないが、決して下手ではなく、整ってはいる。味が足りないだけだ。
 じつのところ、あまり感想は無い。つまらなかったわけでもないが、面白かったというほどでもなく、巻末の参考文献の量を見るに、詳しく調べて書かれているようだが、調べたことを並べているに近い。また、そのせいか数行を使って本筋から逸れた事柄を記すことも多く、情報量としては嬉しくはあるがそこに記すべき小説的価値があるのかは疑問に思えた。
 女性を主人公とすることに強いこだわりがある様子があとがきから窺えるが、夫人の視点から戦国時代を描いた小説で、面白いものは他にも山ほどある。永井路子平岩弓枝を読めばいい。
 それはそれとして、戦国末期の安土・桃山時代から江戸時代の始めにかけては、あまり各地の戦国大名たちがどう動いていたのかを知らなかったが、関東や東北にかけての動きを少し知ることができたとは思う。江戸時代の話を読むと、思わぬ土地に思わぬ家が藩を構えていたりして、あれと思うことがあったが、そういった状況は豊臣や徳川の政権を維持するためなどから生じていたのだろう。
 欲を言えば、直江兼続が天下人の器量と何度も書かれていたが、そのことを示すための場面もありながら、あまり実感や説得力が感じられなかったのが残念だった。