縦に書け!

  • 横書きが日本人を壊している
  • 著者:石川九楊
  • 祥伝社
  • 2005年6月30日初版第一刷

 第三章だけで十分な本。言いたいことの大体は多かれ少なかれ実感があるので、あのことだな、と分かるが、論理が変。
 アホだった自分の高校時代に、受験には必要もないのに小論文の模試を受けたことがあり、そのときのテーマが「孤独」だった。独居老人などについて書けばよかったらしいが、私が書いたのは、一人で家に居て突然誰かが訪ねて来たら怖いよね、というのを腐ったホラーみたいな文章で書いたもので、冗談でも小論文と呼べるものではなかった。返ってきた採点済み答案を見て、何書いてんだお前は、と過去の自分に対して思った記憶がある。
 そんな感じのダメ小論文のような話がダラダラと続く。要するに言いたいことを補強するための論の根拠を著者の思ったことや思い込みに頼りきっているために、言いたいことまでが、はぁ何勘違いしてんの、と思いそうになる。
 縦書きにしたときと横書きにしたときで、文章の内容が異なるなどの実験データは興味深く読んだ。というか、その部分くらいしかすんなり丸呑みできる論がない。他に言いたいことを実感した部分としては、キーボードを介した入力における変換の手間についてなどがある。ただ、著者は実際にパソコンやインターネットを使用したことがないような書きぶりであったため、作中の考察は薄弱な印象を持った。
 書家でもある著者の視点から、縦書きが良いと思う根拠を、きちんと客観的に考察した文章が読みたい。読者にイメージを経由して語りかける小説のような手法ではなく、理詰めで論を構築してもらいたい。